ゆ き と の 書 斎

2010年6月14日 読者の皆さんへ報告(1)


ご心配おかけしております。
先ほど、銃夢LO連載100回目の原稿を上げました。
ウルジャンは予定通り出ます。表紙はガリイ&陽子です。
ですが紙面の華やかさとは裏腹に僕の心はズダボロです。
101回目のGLOはないかも知れません。

事件の経緯を簡単に説明します。
原稿執筆真っ最中の6月7日夜に担当編集から電話があり、今月に発売される予定の旧「銃夢/新装版」1巻について、「セリフの一部に問題があるので修正したい」とのこと。
具体的には「“発狂”という言葉が統合失調症を連想させるので、別の言葉に直してほしい」という。
言うまでもありませんが、「銃夢」はすでに発売されている作品であり、なぜ今になってそんな事を言い出すのか分かりません。
その場で判断するには重大すぎることなので、「新装版全7巻中、問題になりそうなセリフをすべてピックアップして、それに対する代案もつけて提出してください。話はそれからだ」と言って時間を稼ぎました。

翌日、担当からメールが来ました。
了解は取ってあるので全文掲載します。
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木城ゆきと様

おつかれさまです。
昨日、電話でお話した件、送ります。
新装版全7巻収録分について、編集部で協議しました。
以下の3箇所について、ご相談させて下さい。

1:完全版1/P.33/デッキマンの台詞
  「犯人の女は発狂した突然変異(ミュータント)だったのか」

2:完全版4/P.161/ザパンの台詞
  「まちがってお前を殺してしまい…発狂した俺は怪物になって
   すべてに復讐しようとする夢だ…」

3:完全版3/P.324/ハンターウォリアーの台詞
  「死ね! サイコ野郎」

それぞれの理由と、言い換えの提案は以下の通りです。


1:「発狂」が統合失調症(かつての精神分裂病)をはじめとする精神障害と
  強く結びついてしまう言葉です。その「発狂」した人が暴力的で危険である
  という受け取り方をされる表現を、現在は避けているからです。
 
  法務からは「”発狂した”の一文をはずす」という提案もあったのですが、 
 全くニュアンスが変わってしまうので、別案を協議しました。
  「犯人の女は暴走した突然変異だったのか」
  「犯人の女は正気を失った突然変異だったのか」
  「犯人の女はおかしくなった突然変異だったのか」
  
  ここの台詞のニュアンスを考えると「暴走した」「正気を失った」が
  比較的近いと考えます。
  
 
2:「1」の理由と同様です。

  協議した案は以下の通りです。
  「まちがってお前を殺してしまい…正気を失った俺は怪物になって
   すべてに復讐しようとする夢だ…」
  「まちがってお前を殺してしまい…常軌を逸した俺は怪物になって
   すべてに復讐しようとする夢だ…」
  「まちがってお前を殺してしまい…おかしくなった俺は怪物になって
   すべてに復讐しようとする夢だ…」
  
  ザパンの置かれている状況を考えると「常軌を逸した」「正気を失った」が
  比較的近いと考えました。


3:「サイコパス」=「精神病質」を意味し、「共感や他者との結びつきを
  全く示さないと考えられており、他者を自分自身のために操作する、
  反社会的行動をする個人」などとされています。
  
  精神障害の大きな3分類「精神疾患」「知的障害」「精神病質」に含まれ、
  薬事療法も心理療法も受け付けない、治療不可能な障害とされています。
  それ故、サイコパス=何をするかわからない恐ろしい存在、という表現は
  避けるべきと考えています。

  協議した案は以下の通りです。
  「死ね! 変態野郎」
  「死ね! クズ野郎」
  「死ね! クソ野郎」
  
  いずれも言い換えの難しいニュアンスですが、提案として
  ご一読下さいませ。


スケジュールも含め、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
今晩、あらためてご連絡させていただきます。
よろしくお願いします。


集英社UJ編集部 井藤 涼
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疲れたので続きは明日書きます。