ゆ き と の 書 斎

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レビュー(本)

2007年07月26日
『幽霊を捕まえようとした科学者たち』

・『幽霊を捕まえようとした科学者たち』
デボラ・ブラム著 鈴木恵 訳

19世紀末、欧米で大流行したスピチュアリズム(心霊主義運動)を、その中心となった研究者たちの詳細な記録を基に立体的に描き出したドキュメンタリー。
当時話題になった心霊事件や交霊会の様子などが事例として出てくるが、怪談ではなく研究レポートなので、いわゆる「背筋のぞっとするような怖い話」を期待して読みはじめると肩透かしを食らうだろう。
しかし19世紀スピチュアリズムや、同時代の西洋科学思想界に興味がある人であれば、この上なく面白い読み物となる。

まず、本の始めに載っている登場人物のリストがすごい。
進化論のダーウィン、ウォレス、クルックス管を発明したW.クルックス、おなじみコナン・ドイル、マーク・トウェイン、キューリー夫人、マイケル・ファラデー、発明王エジソン等々、ノーベル賞を受賞した当時一流の科学者や文筆家がそれぞれ心霊肯定派・否定派として大量に登場。
キャラの立った個性豊かな研究者たちが「死後生存の証明」を賭けて繰り広げるドラマは波乱万丈で飽きることがない。

なぜこの時代にスピチュアリズムが隆盛したのか以前から僕は不思議だったが、この本を読んで謎が解けた。
それまで欧米世界ではキリスト教の教義によって安定していた道徳が、19世紀になり科学技術の急激な発展と成功によって揺らぎ、否定されかねない状況に陥った。
特にダーウィン進化論の登場はキリスト教会にとって不倶戴天の敵の登場と受け取られた。
(現在でもアメリカ中西部では、進化論を否定するキリスト教創造論者が存在する。)
科学が論理的に正しいことを理解しているインテリ層ほど、「旧来のキリスト教道徳の危機」に敏感で、自覚的であった。
そこで登場するのが「霊魂の不滅=死後生存の証明」であった。
霊魂が不滅であることを証明できれば、聖書に書いてあることがすべてその通りでなくても、人間を道徳的に律する理由になるのではないか、と考えたのである。
仏教と儒教をベースにする武士道を倫理とする日本人からすると、科学と道徳を両立させるためにここまで曲芸的な詭弁を考え出さなければならないというのは不可解な感じがする。
しかしそれだけ彼らにとってはのっぴきならない問題だったのだろう。

結局死後生存は科学的に証明されたのか?
それは読んでのお楽しみ、ということにしておこう。

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